昨日の当ブログで取り上げた『牝犬』(1951 木村恵吾監督)の話の続きです。浅草のレビューの踊り子エミー(京マチ子さん)にのめりこみ金を使い込んだ部下のため、「美人座」に乗り込んだ部長(志村喬さん)ですが、逆にエミーに誘惑されてしまいます。「ミイラ取りがミイラになる」とはこのことです。
翌年の夏、どこかの地方の町でバーのマスターになっている志村さん。あの「誘惑」のあと、志村さん自身、会社の金を使い込んで小さい店を出したことが語られます。エミーはたまに店に出たりしますが、相変わらず奔放で、お客と朝帰りしたりで、志村さんはもう異様なまでの嫉妬ぶりです。エミーにすがりつく姿の何と情けないことか! わずか一年で、あのカタブツの部長がここまで堕ちるのです。
さらに若いサックス吹き(根上淳さん)が町にやって来て、エミーは夢中になります。この辺から、志村さんの嫉妬と焦燥はマックスになり、無精ひげで見るからにみじめな姿になっていきます。本当に志村さんの堕ちていく演技が迫真です。そして、人生が狂ったのは志村さんだけではありません。
さらにいかがわしいキャバレーに流れていくと、ここに煽情的な衣装で踊るストリッパーがいます。何と、久我美子さんです! かろうじてヘソが隠れる大胆な衣装の久我さん、他の映画では観られません。志村さん演じる父が失踪した後、病弱な母(北林谷栄さん)は亡くなり、学校も辞め、久我さんの人生も狂ってしまったのです。地獄の再会となったこの場面の父娘の応酬がすごいです。「女に狂って失踪した父親と、惨めに堕ちた娘が場末のキャバレーで再会。娘は今までのことを忘れてお父さんを許す……。物語だとよくあるわね。でも、これは現実なの。私はお父さんを絶対許さない! 私がどんな気持ちか分かる? こんな所で人前で裸をさらして生きていかないといけないのよ!」と志村さんを振り切り飛び出していきます。
志村さんは追いかけますが、息が切れ、商店街のショーウィンドウに手をついて止まります。家庭ファーストだった志村さんが愛娘の惨めな姿に涙を流しながら目をあげると、ショーウィンドウの中のマネキンの脚。その組んだ脚がエミーの脚に重なり、思わず石を投げつけます。これほどまでに男を狂わせるヴァンプ、京マチ子さんだからこそ説得力がありますね。
この映画を初めて観たとき思い出したのは、もちろん『酔いどれ天使』(1948 黒澤明監督)です。焼跡の残る汚濁に満ちた街で、何とかヤクザ(三船敏郎さん)を立ち直らせようとする医者と、彼が励ます清純な少女。それを演じた志村喬さんと久我美子さんの成れの果てのように見えてしまったのです。
『牝犬』は明日、「シネマヴェーラ」で上映されます。女の肉体に溺れ落ちぶれていく志村さんの名演、そして悲惨な結末を観に行ってください。  (ジャッピー!編集長)





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