昨日の当ブログで、4日に開催された「第8回新藤兼人平和映画祭」における吉行和子さんのトークショーから『にあんちゃん』(1959 今村昌平監督)について語られたことを書きました。その続きです。

今回、『にあんちゃん』と併映されたのは『ブラックボード』(1986 新藤兼人監督)で、いじめをしていたボス的な生徒が「パシリ」に使われていた2人の生徒に殺されるという話で、当時の教育現場を取り巻く問題を提起した作品です。吉行和子さんは、冒頭、川沿いをジョギング中に少年の遺体を発見する女性として特別出演。吉行さんも「忘れていました」とおっしゃっていましたが、ほんのワンシーンなので無理もありません。

しかし、新藤兼人監督との関わりでは重要な作品があります。『世界の一日』という映画です。これは「1960年9月1日」という日を特定して、世界の若者たちがそれぞれの国でどんな時間を過ごしていたかを映し出すというオムニバス映画です。この企画に日本代表として新藤兼人監督が参加、『恋人』という作品を撮っているのです。わずか7~8分の短編というかショート・フィルムですが、これに主演しているのが吉行和子さんです。吉行さんも最近50年ぶりにご覧になったそうで、僕もさすがに未見です。以下、吉行さんのトークによると、登場人物は吉行さんと長谷川哲夫さんの二人のみ。お二人が演じた恋人同士が海に行き、9月初めの浜辺で楽しく過ごすのをスナップ風に撮ったものだそうです。ただ、吉行さんが扮する若い娘は「原爆症に犯されている」設定で、顔にその跡があるのだそうで、恋人と楽しく興じ満面の笑顔を浮かべながら、ふと不安な表情を見せるのだそうです。セリフは一言もないといいますから、『裸の島』(1960 新藤兼人監督)と同じ手法です。毎日、天秤棒で水を運ぶ夫婦(殿山泰司さん&乙羽信子さん)の姿を淡々と撮った名作の原型といえるかもしれません。ともかく、その台詞無しの映像詩で、まだ原爆の記憶が生々しく生活の中に巣食っていた1960年の現実を描いたのですね。

吉行さんの顔のメイクは新藤監督自らがなさった。吉行さんは「ケロイド風に生々しく描くのかしら」と思ったら、予想に反して眉墨ペンシルでくるくると水玉を描いたそうです。「まるで草間彌生さんの絵みたいにね」と回想されました。当時、新藤さんの主宰する近代映協は貧しく車なんかなかったので、そのメイクをしたまま、監督と一緒に満員の乗合バスに乗ってロケ地(湘南海岸)まで行ったエピソードを話してくださいました。

広島出身で生涯、原爆をテーマとし、また『裸の島』の原点ともいえる『恋人』、こんな重要な作品がずっと公開されることもなく幻の映画となっています。どうも「国立映画アーカイブ」にはフィルムがあるみたいなので是非上映してほしいです。  (ジャッピー!編集長)


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