ひとつ前の当ブログで、「生きていて良かった」と思えることを……と書きましたが、これは寅さん(渥美清さん)が、満男(吉岡秀隆さん)に「おじさん、人間は何のために生きているのかなあ」と問われて答えるシーンを念頭に置いています。まったく、僕の頭の中は映画から学んだことだらけなのです。正確には「いいか満男、あー、生まれてきて良かった、そう思うことが何べんかあるだろ、そのために生きてんじゃねえか」といった台詞でしたが、これは、ふと名セリフを発する寅さんの中でも、シリーズ屈指の名言だと思います。僕には名言ベスト・ワンかもしれません。このセリフが登場したのは『男はつらいよ 寅次郎物語』(1987 山田洋次監督)でしたが、今回の『男はつらいよ お帰り寅さん』(2019 山田洋次監督)にも、この場面が引用されていました。ある意味、『男はつらいよ』シリーズに通底する人生観、哲学だと思います。

『男はつらいよ 寅次郎物語』は秋吉久美子さんがマドンナで、第39作目。期の『男はつらいよ』の中でかなり上位にくる出来だと思います。テキ屋仲間が死んで、その遺した少年を連れて実母を探し訪ねるという発端から、途中で病気になった少年の看病を通して出会った秋吉さん、というストーリーの転がり方が絶品でした。秋吉さんに合ったキャラクターだったし、3人がまるで親子のように奈良を見物して歩くシーンとか良かったなあ。見知らぬ子どものために骨をおって、心を通じ合わせる、そんな気持ちが伝わってきます。アフガニスタンで命を落とした医師・中村哲さんが生前、「困っている人がいたら助けたくなる」、それは人間として当たり前のことでしょうとおっしゃっていたのを思い出します。

シリーズが始まってから50年、『男はつらいよ 寅次郎物語』からだって32年経ちましたが、庶民の願うことは「あー生まれてきて良かった」と2、3回感じること、そういったささやかな幸せなのです。しかし、現実世界はどうでしょう。今回の新作『男はつらいよ お帰り寅さん』の中に、スザンネ・シェアマンさんが車で銀座を通るときに、高級ブランドの店が並び、華やかな通りに賑わう人々を見ながら「みんな幸せかしら?」と後藤久美子さんに問いかけるシーンは印象に残りました。「幸せ」とは何なのか、はたして物質的に満たされ、何不自由なく食事をし、買い物をしていれば「幸せ」なのか、今の日本、日本人に声高ではないですが鋭く問いかけているように思います。みんな自分のことだけ考えて必死に生き、余裕がない暮らし。一部が優遇され、他の者のことなんか眼中にない選民思想主義の首相に率いられている政権。自分が良ければいい、自分が、自分が、という中に本当に「幸せ」はあるのか、まさしく『男はつらいよ お帰り寅さん』には、「今」へのメッセージがあったと思います。

(ジャッピー!編集長)

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