このところの当ブログで、317日に亡くなった松田政男さんについて書いていますが、今日は松田さんが出演された映画『絞死刑』(1968 大島渚監督)についてです。

『絞死刑』は、「小松川高校女子学生殺人事件」をモチーフに、その犯人のRの死刑が執行される場面から始まります。ところが、執行後、医務官がRの脈をみると、まだ生きていることが分かります。執行は失敗に終わり、「やり直し」をしようとしますが、意識を回復したRは自己喪失しており、自分が罪を犯したことを覚えていません。罪の意識を自覚させないと、死刑の執行はできないと、その場にいた「死刑を執行する側」の7人の男たちは、Rの記憶を戻そうと奮闘します。

その7人を演じるのが、佐藤慶さん、渡辺文雄さん、戸浦六宏さん、小松方正さんといった大島渚作品の常連俳優4人と、俳優としては素人の3人、足立正生さん、石堂淑朗さん、そして松田政男さんであります。大島さんの独立プロ「創造社」がATGと提携して製作したので、予算がなく仲間うちでキャスティングしたのですが、非俳優といっても、日大芸術学部時代から先鋭的な作品を作り、若松孝二さんとも共闘した足立正生さん、大島さんと松竹時代の盟友で脚本家の石堂さんは映画の「現場」の人ですが、松田政男さんは批評家ですから、どんな「演技」をするのか注目しました。

松田さんは、全く演技指導のようなことがないままいきなり台詞を言わされたと撮影時のことを回想されています。しかし、この素人ぽさが逆にいい味を出していたように思います。たしかに、松田さんの台詞は棒読みで説明調なんですが、その「感情の入っていない」セリフ回しが、松田さんの演じた「検察事務官」の血の通っていないような官僚ぽさが出ているのです。他のメンバーがそれぞれ、大きな「演技」や喜劇タッチでかき回す中、ひとり冷静にロボットのように事務的に説明するので、いいアクセントになって笑いを増幅します。松田さんの抑揚のない「よく勉強しておりませんが……」という台詞が有名ですね。

たしか大島監督はこの「権力側」の7人は誰がどの役をやるか、「入札しよう」ということになり、その前に「立候補」を募ったら、「保安課長」という一番叩き上げの教養のない人物に足立正生さんが立候補したそうです。実際には一番理屈っぽい足立さんが保安課長をやったら面白いとひそかに思っていた大島監督の希望通りになって、「実に面白いキャスティング」になったと監督は回想しています。

足立さんは70年代に入ると、赤軍と行動を共にしてパレスチナに渡り国際手配されますが、足立さんや若松孝二さんを重信房子さんに引き合わせたのが松田政男さんだったのです。松田政男さんが亡くなり、『絞死刑』の7人の男たちのうち、生きていらっしゃるのは足立正生さんひとりになってしまいました。 (ジャッピー!編集長)

 

 

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