「脱出」(1972 和田嘉訓監督)の8年前、和田監督のデビュー作となったのが、「自動車泥棒」(1964 和田嘉訓監督)です。進駐軍の兵士と日本人女性の間に生まれた混血児を収容する施設に暮らす少年・少女たち。周囲からの差別、希望の持てない将来に鬱屈しています。ハツコ(デビィ・シエス)は日本人の大学生(寺田農)にもて遊ばれ、ハツコの弟・ワラジは学校で「やーい、お前の父さんアメリカ・二グロ、そのまた父さんアフリカ・二グロ!」などと虐められます。アフリカに行くことを夢見ている酋長(安岡力也)は、リーダー格で、ハツコの仕返しに寺田をボコボコにしてアジト(防空壕跡?)に監禁します。
施設はミッション系で、彼らは時折、街頭で福音書を売らされます。街を行く人々の奇異なものを見るような視線、ヤケになった彼らはしまいにはまるでバナナのたたき売りのようになります。こうして街に出たときなど、彼らは駐車してある高級車から部品をかっぱらいます。一台丸ごとじゃなく、部品を少しづついただくのは、「その方が金持ちどもが困る」という彼らなりのルールなのです。そうして集めた部品をアジトに持っていき、組み立てて車を作り、施設から脱走しようとしているのです。施設の10周年記念式典でやってきた偉い神父の車からエンジンをとって、ついに改造車は完成し、バッファロー号と名付け、酋長とワラジは寺田に運転させ施設から脱走します。横須賀に着き、酋長は金を作るため、一人で銀行に押し入り、MPに撃たれ、車もろとも炎上します。この結末は、日本人から蔑まられ、米国人からも迫害される、混血児が受ける二重の差別を暗喩するようです。
ラストシーン、酋長は海を泳いでおり、白い帆を張ったヨットが眼前に浮かび、その先にはアフリカの草原が広がります。無惨な死をとげた酋長のかなわぬ夢が幻想のように映し出されるのです。この作品、随所に映画ならではの表現が効果的に使われ、和田監督がデビュー作に力を注いだということが感じられます。施設の少年たちがそのエネルギーを爆発させたように踊るミュージカル風のシーン、酋長がやり場のない怒りにニワトリを殺して羽を盛大にむしるシーン、改造車で脱走するとき、施設の豚小屋などをぶっ飛ばし豚を縛って吊るすと、それが施設のシスターたちを天井から吊るす画面になったり、シュールな映像が強烈に差し込まれます。今だったら、動物虐待で問題になりそうですが。一方で酋長とハツコが土管の中でささやかな夢を語り合う、抒情的なシーンも印象的です。
和田嘉訓監督、もっと評価されていいと思います。脚本も自身で書かれていて、のちの「脱出」も混血児が主人公。混血児に問題意識や拘りがあったのか、そのあたり、研究する余地があるように感じます。安岡力也、デビィ・シエスはのちの真理アンヌ、上岡肇はのちのケン・サンダース、森田則之はのちのパット・モリタ、城アキラはのちのジョー・山中…とのちに有名になるハーフ俳優が大挙出演しています。また、聖書を売るのは新宿伊勢丹前の路上、最初に力也と寺田が対決するのが今は無き新宿ミラノ座前の噴水、2度目に寺田を痛めつけるのは早稲田の文学部キャンパスです。    (ジャッピー!編集長)

にほんブログ村 その他趣味ブログ 昭和レトロへ にほんブログ村
おもしろいと思ったら、クリックしてください!